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日本/世界大学ランキングの注意点 一橋大学がランク外の理由

 世間一般では名門大学ということになっている一橋大学だけれど、日本大学ランキングではランク外になっている。そして、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の世界大学ランキングにおいても、上海ランキング審議会の世界大学学術ランキング(ARWU)においても、それは同様だ。何も日本大学ランキングが不正を行っているわけではない。

 大体どこの大学ランキングにも相手にされていないのだから、一橋大学がレベルの高い大学というのは世間の思い込みだ、と言ってしまえばそれまでなのだが、ランク外にならなければならないほどレベルの低い大学でもないこともまた確かである。一橋大学がランク外になっているのには、大学ランキング作成の裏側と言うのか、事情と言うのか、要は技術的な原因が絡んでいるのだ。

 この記事では、その謎を解明すべく、日本大学ランキング算出の仕組みを解説する。加えて、大学ランキングにおいて東京工業大学に代表される自然科学系(理系)の大学には有利に働いていることについても併せて説明する。

 このブログは日本大学ランキング公式なので、他社のランキングにまで詳しくは言及しないが、作成方法は大体どこも似たようなものである。

概要

 日本大学ランキングや世界大学ランキングが世間の感覚からずれることがあるのは、

  • 公刊論文数による足切り
  • 学問領域の違い

があるからだ。一橋大学がランク外になるのは、小規模かつ社会科学系(文系)の大学であることに起因している。以下、

  • 大学の選定基準
  • 学問の性質
  • 大学の有利性・不利性

の順に説明していく。

大学の選定基準

 2019年末時点において、日本には786の大学がある。その内、日本大学ランキング2019-2020で評価の対象となったのは41大学である。まず、日本大学ランキングが大学を選定する基準について説明する。

評価対象

 日本大学ランキングでは、年間250本以上の論文を公刊した大学を評価の対象にしている。つまり、優れた大学であっても、年間250本を下回った時点で即足切りとなる。

日本大学ランキング掲載の難易度

 1年で250本なので、研究者が250人所属する大学であれば、1年間に研究者1人あたり1本以上の論文を書けば、この条件を満たす。日本大学ランキングに掲載されることがどれくらいの難しいのか、見ていこう。

年間論文数の目安

 論文というのは、ブログの記事のようにポンポン量産できるものではないのだけれど、研究者であるなら1年に1本から数本程度書くのが普通の感覚だと思う。

 では、論文数というのは実際どの程度のものなのか、例示する。本当は色々な大学教員のデータを掲載した方がわかりやすいとは思うのだけれど、見せしめのようになってしまうので、世界的な研究者3名に限定した。

生涯公刊論文数
学者 論文数
大村智 1261報
審良静男 1029報
湯川秀樹 54報

 大村智さんと湯川秀樹さんはノーベル賞受賞者、審良静男さんは論文被引用数世界一であり、ガードナー国際賞の受賞者でもある。大村さんと審良さんはまだ現役で、論文数は2020年2月26日時点での情報である。

 大村さんと審良さんは年間20~30本で、これは多い部類に入る。一方で、湯川さんは年間1~2本程度であった。数が多ければ優れた研究者で、少なければ劣るというわけではない。生産される論文の数は、研究分野・専門によって事情が異なるし、研究手法・スタイルにも依存する。

 また、論文というのは質が重要なのであって、生涯1本の論文しか書かなかったとしても、それが世界を変えたのなら、その方は偉大な研究者である。しかし、通常であれば、1年に1本の論文も書かないなら、一体何をして日々過ごしているのだろうか、という疑問を生じさせる。ユーチューブでも見ているのだろうか。

大学の規模

 次に、教員数が250人を下回るほど規模の小さい大学なんてそうそうあるものではない。したがって、並の研究者を揃えている普通の大学であるなら、簡単に達成できる、はずである。

教員数
大学 教員数
東京大学 3830名
東北大学 2976名
京都大学 2658名
首都大学東京 666名
大阪府立大学 642名
東京農工大学 385名
一橋大学 304名

 日本大学ランキングに掲載された大学の内、教員数の多い大学と少ない大学を各3校と、一橋大学の教員数のデータである。最も規模の小さい大学は東京農工大学で385名、一橋大学は304名である。うーむ、微妙なところだ。次節「学問の性質」で自然科学と社会科学・人文科学の違いを検討した後、「大学の有利性・不利性」で一橋大学ランク外問題をまとめる。

有利・不利とは無関係なのだけれど

 公刊論文数は足切りに使われるだけであって、規模の大きい大学が有利だとか、規模の小さい大学が不利だとかは関係ない。ただ、レベルの高い大学であっても、規模の問題でランキングから除外されてしまうことがある。言い方を換えると、日本大学ランキングや世界大学ランキングに掲載されていないからといって、低レベルとは限らない。

学問の性質

 次に、自然科学(理系)と社会科学・人文科学(文系)の性質の違いについて検討する。

自然科学(理系)

 人種や食生活、あるいは生活環境などの違いによって、なりやすい病気が異なることはあっても、国によって人体の構造が大きく変わるということはない。またボールを適当に投げたら、勝手に変化球になってくれる国もない。変化球が投げられるようになるかは、本人の努力とママのお弁当次第である。

 すなわち、自然科学はママのおべんと……、失礼、自然科学には真理が存在する。自然科学は世界共通の学問なので、論文は通常英語で発表される。

社会科学・人文科学(文系)

 一方で、社会科学・人文科学に分類される学問の場合、経済学など一部の領域を除いて、地域性が強い。すなわち、法律は国によって大きく異なるし、日本の歴史について研究するのは主に日本人の研究者が中心である。日本文学は、日本語そのものが研究の対象であるので、研究成果の報告は日本語で行われるのが通常である。

 わかりやすく言うと、社員が日本人ばかりなのに「英語公用化だ」、「社員全員TOEIC◯◯◯点以上を目指せ」なんてバカはいないよね、ということである。

大学の有利性・不利性

 最後に、日本大学ランキングや世界大学ランキングにおいて、一橋大学がランク外かつ不利な条件になっていて、東京工業大学には有利なランキングとなっている理由をまとめる。

評価対象は英語論文のみ

 日本大学ランキングと世界大学ランキングの論文数および被引用数において、研究の成果として評価されるのは、英語で報告された論文のみである。したがって、社会科学および人文科学の分野で素晴らしい研究が行われていたとしても、日本語で発表されていれば、それは評価の対象とはならない。

一橋ランク外問題と東工大有利説

 非常に単純化した例を考えよう。大学ごとの有利・不利について、論文の被引用数を例に説明するが、日本大学ランキングの他部門においても同じことが言える。

 総合大学A、自然科学系の大学B、社会科学系の大学Cの3大学があるとする。学部構成以外は全て同等と仮定する。A大学は自然科学・社会科学が専門の研究者が各200人で合計400人、B大学は自然科学が専門の研究者が400人、C大学は社会科学が専門の研究者が400人とする。

研究者の構成
大学 研究者数
自然科学 社会科学 合計
総合大学A 200人 200人 400人
自然科学系の大学B 400人 0人 400人
社会科学系の大学C 0人 400人 400人

 全員年間1本の論文を書き、自然科学の論文は全て英語で発表され、社会科学の論文は半分が英語で、半分は日本語としよう。すると、全ての大学で論文数は400本になるのだけれど、日本語の論文は除外されるため、論文数として数えられるのはA大学300本、B大学400本、C大学200本となる。

 ランキングから除外する基準を公刊論文数が年間250本未満の大学とすれば、社会科学系のC大学はここで脱落となる。まず、これが日本大学ランキングや世界大学ランキングにおいて、一橋大学がランク外になってしまう理由である。

大学の選定
大学 評価対象となる論文数
自然科学 社会科学 合計
総合大学A 200本 100本 300本
自然科学系の大学B 400本 0本 400本
社会科学系の大学C 0本 200本 200本

 次に、自然科学の論文、社会科学の英語論文ともに10回引用されたとする。被引用数でも日本語の論文は除外されるため、大学Aの被引用数は3000回、大学Bは4000回となる。

被引用数の指標
大学 評価対象となる被引用数
自然科学 社会科学 合計
総合大学A 2000回 1000回 3000回
自然科学系の大学B 4000回 0回 4000回

 最後に被引用数を教員数で割って、正規化すると、A大学の被引用数は7.5、B大学の被引用数が10.0になる。A大学とB大学は同レベルの大学にもかかわらず、除数とする教員数に日本語で論文を出版する研究者も含まれるため、社会科学分野のない大学Bの得点の方が総合大学Aよりも高く算出される。これが、東京工業大学、東京農工大学、東京医科歯科大学といった自然科学系の大学がランキングで有利になる理屈である。

得点
大学 正規化された
被引用数
総合大学A 7.5
自然科学系の大学B 10.0