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研究の成果として生み出される論文には、世界中の研究に多大な影響を与えるものもあれば、そうでもないものもある。実際には、引用されない論文の方が多数派である。さて、日本の大学では、世界的な研究はどれほど行われているだろうか。
高被引用論文とは
トップ1%論文部門は高被引用論文と呼ばれる指標を採用している。高被引用論文とは、被引用数が世界の上位◯%に入る論文と定義される。つまり、多く引用された論文ということであるが、「多被引用論文」ではない。
この「上位◯%」というのは、1%だったり、5%だったり、10%だったりするわけだけれど、日本大学ランキングでは世界的な研究成果と言える上位1%を採用する。日本大学ランキングは仮にも日本の大学3位を決めようという試みであるので、5%や10%では、生ぬるい、ぬるすぎる。もはや、ぬるさを通り越して、固体になりかけて気体になりそうだ。
論文被引用部門では、すべての論文のすべての被引用数をデータとして採用したので、大学全体の研究水準を測ることができた。一方、トップ1%論文部門は、残る99%の論文を除外することから、得点が一部の上位研究者に依存しやすい特徴がある。
日本大学ランキング2019-2020トップ1%論文部門
トップ1%論文部門が日本大学ランキング最初の関門である。この後には、ゼロ点が続出したトップ1%研究者部門、主要国際賞部門が控えている。この部門でまともな点数が出せない大学は、名門大学からは程遠い。
参考として、トップ50%論文部門と比較した順位の変動と得点の比率を掲載する。得点の比率は、
トップ1%の得点÷トップ50%の得点×100
で計算している。この数字は100%に近いのが好ましく、小さければ、これまでに行われた研究の内、有力なものの割合が相対的に少ないことを示す。
順位 | 序列 | 大学 | 区分 | 得点 | 比較 | |
---|---|---|---|---|---|---|
順位 | 得点率 | |||||
1 | S | 東京大学 | 国立 | 100.00 | +2 | 111.84 |
2 | S | 京都大学 | 国立 | 98.36 | 0 | 99.53 |
3 | A | 東京工業大学 | 国立 | 87.78 | -2 | 87.78 |
4 | A | 大阪大学 | 国立 | 76.75 | 0 | 95.14 |
5 | A | 名古屋大学 | 国立 | 66.89 | 0 | 87.79 |
6 | B | 東北大学 | 国立 | 61.46 | +1 | 93.78 |
7 | B | 九州大学 | 国立 | 53.43 | +2 | 82.95 |
8 | 北海道大学 | 国立 | 44.40 | 0 | 68.76 | |
9 | 東京農工大学 | 国立 | 36.33 | -3 | 51.41 | |
10 | 慶應義塾大学 | 私立 | 29.34 | +6 | 76.68 | |
11 | 東京理科大学 | 私立 | 29.27 | +4 | 73.49 | |
12 | 神戸大学 | 国立 | 27.09 | -2 | 59.30 | |
13 | 東京医科歯科大学 | 国立 | 26.61 | -1 | 63.78 | |
14 | 金沢大学 | 国立 | 26.06 | 0 | 65.15 | |
15 | 広島大学 | 国立 | 25.18 | -4 | 58.91 | |
16 | 岡山大学 | 国立 | 23.63 | +5 | 65.68 | |
17 | 筑波大学 | 国立 | 23.19 | +2 | 61.54 | |
18 | 首都大学東京 | 公立 | 22.62 | +8 | 79.12 | |
19 | 千葉大学 | 国立 | 21.14 | -6 | 52.63 | |
20 | 熊本大学 | 国立 | 19.05 | -2 | 50.35 | |
21 | 大阪府立大学 | 公立 | 18.43 | -1 | 50.14 | |
22 | 大阪市立大学 | 公立 | 17.61 | -5 | 46.10 | |
23 | 新潟大学 | 国立 | 17.59 | +4 | 62.91 | |
24 | 早稲田大学 | 私立 | 16.66 | +11 | 74.39 | |
25 | 横浜市立大学 | 公立 | 15.67 | +3 | 56.61 | |
26 | 長崎大学 | 国立 | 14.01 | +4 | 54.14 | |
27 | 群馬大学 | 国立 | 13.48 | -2 | 43.73 | |
28 | 山形大学 | 国立 | 13.30 | +8 | 60.86 | |
29 | 信州大学 | 国立 | 12.71 | 0 | 48.51 | |
30 | 富山大学 | 国立 | 10.99 | -6 | 35.31 | |
31 | 岐阜大学 | 国立 | 10.08 | -8 | 31.86 | |
32 | 三重大学 | 国立 | 9.78 | -1 | 37.96 | |
33 | 愛媛大学 | 国立 | 9.61 | -1 | 39.12 | |
34 | 徳島大学 | 国立 | 9.38 | -12 | 27.73 | |
35 | 順天堂大学 | 私立 | 8.58 | +3 | 49.38 | |
36 | 近畿大学 | 私立 | 8.54 | +3 | 54.88 | |
37 | 鹿児島大学 | 国立 | 8.50 | 0 | 39.53 | |
38 | 山口大学 | 国立 | 8.28 | -5 | 34.80 | |
39 | 鳥取大学 | 国立 | 7.21 | -5 | 31.51 | |
40 | 北里大学 | 私立 | 6.98 | +1 | 60.80 | |
41 | 日本大学 | 私立 | 5.95 | -1 | 42.44 |
全部門において地味な存在、東京大学がトップ1%論文部門ではかろうじて第1位の座を獲得した。2位には京都大学がつけている。
論文被引用部門とトップ50%論文部門では、ずっと仲良しこよしだった東北大学、九州大学、北海道大学、東京農工大学の間で明暗が分かれた。北大と農工大にいたっては点数が低すぎて、ランク付けの対象外である。
トップ50%論文部門と比べて、上位大学については目立った変動はなかったものの、多くの国立大学が大幅に得点を下げる結果となった。特に際立っているのが徳島大学で、トップ50%論文部門の約28%の得点を叩き出し、順位が22位から34位にまで転落した。国立大学が情けないおかげで、私立大学全般が順位を上げ、生意気にも慶應義塾大学が第10位であった。
「私大は金がいい」という噂を聞いたことがある。名門大学から頭脳が流出することはなくても、中途半端な国立大学に勤めるくらいなら「私大に行こっかな」という研究者は多いのかもしれない。実際のところは知らんけども。
大学の実力を色濃く示すことになったトップ1%論文部門の非常になめらかなグラフは、滑ったら気持ち良さそうな雪山状態である。でも、最初の方は45°くらいの急斜面になっていて、私はちょっと怖いので、慶應辺りからソリにでも乗って、優雅な一時を楽しむことにしよう。
トップ50%論文部門との比較
ランキングに付記したトップ1%論文部門と50%論文部門の得点比率をグラフにした。左から国立、公立、私立大学に分け、各区分の中でトップ1%論文部門の得点順に並べている。
グラフの一番左、東京大学が約112%であった。京都大学から九州大学までは90%前後の比率を維持しており、このあたりは合格点である。北海道大学からは50~60%までグッと比率が下がっているのが見て取れる。グラフ中央あたりに位置する富山大学から鳥取大学までは、驚愕の30%程度にまで下落している。
右から1/3あたりで棒が長く伸びているのが首都大学東京である。下位国立大学と比べ、公立・私立は比較的ましであることがわかる。